こんにちは。たきこ(@butaon_takiko)です。
照明さんならいわずもがなですが、舞台の仕事で時折、ブリッジに登ったり高所作業をする際に、フルハーネスを使う場面があります。
一般的には、フルハーネスの使い方が分かる先輩に教えてもらうか、照明さんに教えてもらうかが多いのではないかと思いますが、聞ける人が近くにいない場合もあります。
または、間違った使い方が慣習になってしまっている場合もあり、この場合は特に自分たちで気付くことは難しいですよね。
今回は、フルハーネス型安全帯(墜落制止用器具)特別教育に個人で受講してきましたので、様子をレポートします。
フルハーネス型安全帯(墜落制止用器具)特別教育の概要
平成31年2月1日に施行された法律に伴っているので、かなり新しい特別教育です。
正式名称は、フルハーネス型安全帯(墜落制止用器具)特別教育です。
これまで「安全帯」と呼んでいたものが、平成30年6月に労働安全衛生法が一部改正したことにより、「墜落制止用器具」となったので、安全帯に対してカッコ書きされています。
名称が長いので、
「フルハーネス型安全帯等特別教育」や「フルハーネス型墜落制止用器具等特別教育」
のように、安全帯及び墜落制止用器具を「等」として省略明記している場合もあります。
フルハーネス型安全帯(墜落制止用器具)特別教育の受講対象者はこちらです。
高さが2メートル以上の箇所であって作業床を設けることが困難なところにおいて、墜落制止用器具のうちフルハーネス型のものを用いて行う作業に係る業務(ロープ高所作業に係る業務を除く。)
労働安全衛生法 第59条-3より 労働安全衛生規則第36条-41
フルハーネス型安全帯(墜落制止用器具)特別教育は、以下の内容です。
1.作業に関する知識(1h)
2.墜落制止用器具に関する知識(2h)
3.労働災害の防止に関する知識(1h)
4.関係法令(0.5h)
5.墜落制止用器具の使用方法等【実技】(1.5h)講習代金 9,900円(テキスト代含む税込)
一般社団法人 労働技能講習協会より引用
フルハーネス型安全帯(墜落制止用器具)特別教育の雰囲気と内容
全体で約60名ほどいたと思いますが、見回した限り、女性は私含めて2人でした。
き、気まずい・・・!(笑)
テキストはこんな感じです。
内容の8割は座学ですが、実技では数人ずつフルハーネスの点検と着用をやってみます。
人数が多い講習だと待ち時間がそれなりにありました。
以下では、私がフルハーネス型安全帯(墜落制止用器具)特別教育を学んで特に重要と思ったことをまとめます。
学んだこと1 高さの基準ごとに考えるべきこと
高さ6.75m以上(約3間4尺)の作業はフルハーネスを必ず使用しなければなりません。
フルハーネスでの墜落時に地上に当たる心配が無いためです。
高さ5m以上(約2間4尺)はフルハーネスの使用が原則ですが、移行期間の間は胴ベルトも可です。
フルハーネスの製品によっては、墜落時に地上に激突して危ない場合があります。
ランヤードが短いものや、巻取り式のタイプなど、この高さに合ったフルハーネスとランヤードを使うのが望ましい。
高さ2m以上(約1間強)の作業は、「作業床(さぎょうしょう)」が必要になります。
作業床を設けることが難しい場合は、要求性能墜落制止用器具等(つまりフルハーネスや胴ベルト)が必ず必要になります。
フルハーネスを使うのが原則ですが、地上に激突して危ない場合は胴ベルトも可です。
ただし、胴ベルトが使えるのは移行期間である2021年末までなので、ランヤードのタイプを工夫してフルハーネスを使うべし!
つまり、舞台で考えると・・・?
- ブリッジ、ギャラリー作業
→ほとんどの劇場で6.75m超えると思うので、フルハーネスがマスト。 - 電動リフト(ジニー、スノーケル等)
→墜落時に床に当たらなければフルハーネスが望ましい。2021年末までは移行期間なので胴ベルトも可。 - 2m以上の高さの作業
→墜落時に床に当たらなけれフルハーネスが望ましい。2021年末までは移行期間なので胴ベルトも可。
学んだこと2 作業床の考え方
フルハーネスの特別教育や、関連した特別教育である足場の組立等でもよく登場する言葉に、「作業床(さぎょうしょう)」があります。
フルハーネスが必要か不要かが分かれたり、足場では特別教育の受講が必要だったり否だったり。
作業床の有無が様々な判断基準の肝になっています。
基本の数値としては、
【 幅40cm以上、床材間の隙間は3cm以下、床材と建地の隙間は12cm未満 】と言われています。
しかし、実際の現場においては「作業床」の定義がなかなか難しく、現在は実質、現場監督官が作業床かどうかの判断を握っている状態です。
電動リフト(ジニーやスノーケル等)のバスケット内は、本来は作業床と呼べる場所だそうです。ですが実際に業務を行っていると、腕を出したり身を乗り出したり、とてもバスケット内で済む作業ではありません。
この時点で、安全な作業床とは呼べなくなり、フルハーネス等が必要になります。
例えバスケット内で収まる業務や一見安全に見える空間でも、責任問題等も考えて現場監督官が「作業床でない」または「フルハーネスを着用しなさい」と言えば、作業者はフルハーネスを着用することが義務になります。
学んだこと3 フルハーネスの選び方・使い方・注意点
フルハーネスを選ぶ際は、必ず試着がマストです!
メーカーにもよりますが、普段着ている洋服サイズの1つか2つ下が基本になるとのことです。
男性でもSサイズが基本になります。
特別教育の中で着用しましたが、私はSサイズでも大きすぎるくらいでした。女性用の製品もあるとのことです。
「新規格」「墜落制止用器具」と記載されているものを選びましょう。
古いフルハーネスを処分したくて格安で販売されているケースもありますので、要注意です。
墜落すると腿ベルトで静脈を圧迫するので、20分以上の宙吊りは危険とされています。
静脈の圧迫を防止するために、
- うっ血防止ストラップ
- 足掛け補助具
- スリング
このいずれかが付いている製品や、オプションで別付け出来るものもあるので、なるべく付いたものを選択しましょう。
最大質量をチェックする際は、衣服や腰道具なども含めて考える必要があるので、【 自分の体重+15kg 】を目安にします。
墜落・転落による労働災害のうち、80%はフックの問題だそうです。
フルハーネスにおける受け手とD環カラビナは、11.5kn以上の強度が必ず必要です。
交換の目安は、フルハーネスは使用開始から3年、ランヤードは2年が交換目安です。
装着の際、胸ベルトは思ったより高めに設置すること。
2丁使いの際、墜落時にアブソーバが1つになるように使用しましょう。
2丁掛けでアブソーバが2つあると、衝撃が分散されて本来のアブソーバの働きが出来なくて逆に危険になるためです。
学んだこと4 根拠になる法令
結局どういう基準なの?と振り返りたくなったときは、以下の法令を参考にします。
- 労働安全衛生法 第59条の3
- 労働安全衛生規則 第36条 41 特別教育を必要とする業務
- 労働安全衛生規則 第518条 作業床の設置等
- 墜落制止用器具の安全な使用に関するガイドライン 第4 墜落制止用器具の選定 基本的な考え方
フルハーネス型安全帯(墜落制止用器具)特別教育については、厚生労働省が出している質疑応答集が分かりやすいです。
学んだこと5 保護帽(ヘルメット)について
これはコラム的な扱いにはなりますが、私が知らなかったので・・・
ヘルメットを被る際、厚手のタオルを挟んで被るのは、滑って脱げる可能性があるので駄目とのことです。
使い捨てのタイプや洗濯可能なものもあるので、ヘルメット専用の汗取りグッズを使いましょうとのこと。
例えばこんなものがあります。
交換目安は、大きな傷がなくても3年で交換するべしとのことです。
舞台裏方がフルハーネス型安全帯(墜落制止用器具)特別教育を個人で受講してみた!おわりに。
実際に受講してみて、最初から最後まで舞台業界にも直結する内容が多かったというのが実感です。
私は足場の組立等特別教育や玉掛け講習なども受講しました。
どれを一番最初に受講するべきかと聞かれたら、フルハーネス型安全帯(墜落制止用器具)特別教育をまず受けてくださいと答えます。
なぜなら、最も現場や業務に響いてくる教育内容だからです。
個人で受けるには費用はかさみますが、知識や安全がお金で買えるなら安いものです!
受講を迷っている方、ぜひ足を運んでみてください。
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